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福井の中学校の新しい学校づくりと教職大学院(その2)

(2)「異学年型教科センター方式」の教育的意味


 中学校は学校教育の中でも特別に難しい課題をかかえています。思春期特有の自我と他者との悩ましく激しい葛藤がどの子にも潜在しています。先生や親からは「自立」を絶えず迫られながら、まだ幼さ、未熟さいっぱいです。しかも、すぐあとに、人生最初の試練の高校受験が控えています。こういう中で、しばしば一部生徒が荒れ、ときにそれが学級崩壊や学校危機に陥ったり、あるいは学校生活にどうしても適応できず、不登校になったりは珍しいことではありません。全国で13万人と言われる不登校は、中学校でがくんと増えます。中学校の先生方の話を聞くと、いつもたいへんだなあと感じます。私のゼミの卒業生の中にも、横浜の中学校でこういう現実に直面し、生徒指導に全力投球し、その分野で今や全国各地の荒れで苦しんでいる学校に出向いてアドバイザー役をつとめている人がいます。


 こういう中学校の難しい課題に対して、個々の先生方の努力にも限界があるでしょう。明治以来の日本の義務教育の「頑丈な」学校システム(設置者の限定、厳格な設置基準、指導要領による全国共通の教育課程、さらには、就学義務と地域指定、学齢主義等)の根本の見直しはさておいて、現行システムの範囲内でも可能な限り大胆な改革が求められます。教科センター方式は、ハード面からのその試みのひとつで、すでに全国の公立中学校で60校あまりつくられています。その中でも、至民中学校は、「異学年型」として最も意欲的で先進的な取り組みだと言えます。


1)教育改革への徹底した取り組み
 ハードや器(うつわ)の変化がソフト・教育の中身を自動的に変えるわけでないのは言うまでもありません。どこの教科センター方式導入に当たっても、教育の中身の改革が謳われていますが、至民中の場合それが徹底しています。
 2008年の新校舎スタートまでに、旧校舎で4年間にわたりこれまでの教育を見直しどう変えるかの熱心な議論が教師集団の中で行われました。それは素晴らしいことですが、同時にその出発点は、福井市教育委員会とくに当時の教育長と福井大学教育地域学部(中心は松木健一教授)の強いリーダーシップによるものだったことも見逃してはならないでしょう。何事もそうですが、とくに継続性を軽視できない学校教育においては、強く的確なリーダーシップが不可欠であることを再確認しました。松木教授の案内で見学しながら、あらためてその意を強くしました。至民中の経過は、適切なトップダウンと全教員の熱意溢れるボトムアップとのアマルガムの希有な成功例であったと言えるでしょう。異学年方式は松木教授の発案だったようですが、これを受けて先生方は、当初戸惑いながらもどう具体化するか徹底議論したそうです。またこういう連携が可能だったのは、20年近くまで遡る、大学と教育委員会との協力信頼関係があったからこそでした。


2)「知識注入型」から「探究・協働型」の学習スタイルへ
 至民中の教育改革のコンセプトは、「探究・協働型」学習スタイルへの転換、さらには新しい「学びの共同体・学校文化」の創造という点で一貫しています。 一般に「教科センター方式」は、教科毎に教室をまとめ生徒がそこに移動する形で、教科毎の学習環境の厚みと生徒の主体的な学習姿勢に有益だと言われていますが、至民中はそれをさらに展開しています。それを端的に示すのが70分授業というユニークな設定です。これは生徒の移動に余裕を持たせるだけでなく、広くフレキシブルなスペースを活用し、一授業時間の中で必ず生徒同士の小グループの探究活動を入れるという学校全体の方針によるものです。そのために、間仕切り壁だけでなく、すぐ手近なところに小さめのホワイトボードが全グループ用に用意されています。最近学校にも導入されつつあるファシリテーショングラフィックを先取りした感じです。
 至民中の教育コンセプトの核は、生徒の協働的学びの視点でしょう。同時に、それは教師の協働にもつながっています。つまり壁のないオープンな教室群の中で、教師同士いつも授業を見合うことができるわけです。ときに「学級王国」になりがちな、従来の「閉じた教室」の中での教師個人による学習指導を脱却しようという方向が鮮明に打ち出され実行されています。
 実際に短時間ではありますが見学しながら、なるほどこれは生きているなと感じたのは、生徒の学校生活全体で発揮されているこの活動性と協働性でした。生徒たちはとにかく学校で伸び伸びと活動している印象でした。


3)「異学年型」ホーム=「小さな学校」
 教科センター方式の探究・協働的学習スタイルと対になりそれをさらに具現化するのが、至民中が最初に導入した「異学年型」です。
 「教科センター方式」の問題点としてよく生徒指導の弱体化が挙げられます。ホームベースが何らかの形で設けられますが、下手をするとロッカールーム的な場でしかないものになってしまい、密度濃い学級単位、学年単位の生徒指導が弱まる弊害があるのです。これを、むしろより生徒の自治と活動性を高めるものとしようというのが「異学年型」です。
 教科スペースは英数国社理の5つに分かれていますが(音楽、美術、技術・家庭などは学校の中心に広いスペースを持ったホールの周りにつながっています)、この5つの教科スペースに1年から3年までの1学級ずつのまとまりが隣接しています。写真で見るように、このホームスペースも真ん中に共通スペースを持ちけっこう広い空間です。ホームスペースと教科スペースの接点に教科の先生方の部屋があり、この先生方が同時にホームのクラス担任を兼ねます。
 この「異学年型」には当初先生方はかなり抵抗感を持ったようです。学級学年の指導が弱まる、学年を超えた集団化は学年の対立やいがみ合いを強めることにならないかなどの理由です。
 しかしスタートして4年、それらの懸念はほぼ杞憂だったと言われています。それは、これら各ホームが学校行事や総合学習、地域活動の基礎単位とされ、生徒の自治活動の拠点として重視したせいだと思われます。実際、全体ホールの天井には、それぞれのシンボルカラーを生かした各ホームの旗が生徒たちの手書きでつねに掲げられています。ホーム内の学年の確執も、生徒たちは案外容易に乗り越えていったようです。むしろ、どの中学校にもある学年の対抗心や争いごとが大幅に減ったとのことです。かつての「生徒指導困難校」の状況は一変したようです。
 先生方の懸念に投げかけられたコンセプトは、やはり松木教授の、「ホームは小さな学校で、これが集まって合衆国のようにひとつの学校をつくるのだ」という指摘でした。
 私は、日本の学校システムの頑丈さのひとつとして、厳格な「学齢主義・学年主義」について以前から考えあぐねていました。フランスのように小学校から落第があるような方式は日本では難しいでしょう。しかし、地域毎の学校指定とともにこの固定的な学年主義は、いろいろな困難の要因のひとつになっています。至民中の「異学年型」が唯一の方法ではないと思いますが、日本の学校システム改革のひとつの有益なソリューションになりうるものであることは間違いないでしょう。


4)課題
 以上、至民中の新しい学校づくりについてその有意味な面のおもなものを見てきました。しかし、何事もパーフェクトがありえないのは言うまでもないことで、至民中の意欲的な試みについても私見では小さくない課題があるように思います。
 そのひとつは、教育改革の基本コンセプトが「探究・協働型」という一教育法に偏りすぎていないか、教科センター方式の主眼である生徒の学習レディネスの強化と若干そぐわない面があるのではないか、ひいては学力向上という欠かせない課題に十分に応えられるのかということです。生徒の協働性と活動性はたしかに大いに発揮されているし、生徒は以前よりずっと落ち着いて学校生活を楽しんでいるのは間違いないでしょう。でも中学校教育の「目的」にやはり「学力」は欠かせません。見学当日の学校側の説明でも、学力はまだこれからですと率直に話されていました。併せて敢えて指摘するなら、改革の中で繰り返されている「新しい学力」についての考え方。「学び続ける力としての学力」について、私見では検討の余地があると思います。
 「習得」と「探究」について偏らず習得も重視するとしていますし、70分授業でも午後1時限で毎日20分の習得・自習のための時間が設けられていますが、中学校で達成すべき「学力」はどんなものであり、どのように獲得されるべきかについてさらに研究検討し続ける必要があるのではないでしょうか。
 もうひとつは、「異学年型」の優位性と限界です。ホームの活動は協働性に満ちています。しかし、思春期の生徒一人ひとりの個性や自立性はこれによってどのように生かされるのでしょうか?例えば不登校はどうでしょう。これも、学校の説明では不登校生は減っていないとのことで、実際見学したとき、保健室に隣接している二部屋の「相談室」では、5,6人の生徒がトランプで楽しそうに遊んでいました。不登校の問題は、どんな学校システムでも難問で、福井では、福井大と市教委との見事な連携による教員志望学生必修の不登校生サポート活動が大規模に行われているのですが、地道な学習(補習など)を通した不登校問題への学校としての取り組みも求められるのではないかと思います。
 最後に、より根源的な問題です。それは、学校づくりと教育改革が教師の協働性によって積極的に全教員の熱心な活動によって進められているのは素晴らしいことですが、これがふつうの学校のふつうの教育活動として日常的に定着したものと言えるのかどうかという点です。フルオープンの教科スペースはまさに教師集団の日常的な授業公開と研修など教師の協働によって生かされているようですが、それがどういう意味で学校における教師の資質能力向上になっているかです。
 至民中学校は新しい出発のときから、福井大の教職大学院の拠点校になっています。そして福井市内では最先進の研究指定校、つまりモデル校とされています。このような特別の位置づけの中で至民中の教育改革ははじめて成り立っているのでしょうか。ひいては、ふつうの学校の日常の教育活動の中での教師集団の協働性、資質能力向上、研修として広く種々の学校で見本とされるものとなっているのでしょうか。
 これらについては、福井大学の教職大学院の実際を見る中でさらに考えてみることにします。
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Tag:教育 

福井の中学校の新しい学校づくりと教職大学院(その1)

 11月10日、福井大学の教職大学院を訪ね、その紹介で連携協力校の至民中学校を見学してきました。先進的な学校づくりとそこを拠点とした福井大の教職大学院に強い感銘を受けました。


(1)至民中学校の「異学年型教科センター方式」


まず至民中学ですが、ここはもともと市街地中心部にあり、生徒指導上難しい学校だったそうですが、4年前耐震改修の機会に、福井大学側の全面協力のもと施設上も教育上もまったく新しいコンセプトによる学校として再出発しました。郊外の静かな山裾にあり、1学年5学級の中規模中学校です。外観も見事にモダンなセンスの校舎になっています。
IMG 0243
 この学校は、「異学年型教科センター方式」と呼ばれています。福島県三春町桜中が先駆で(平成3年)、その後新潟県の聖籠中で一躍有名になり全国で拡がりつつある「教科センター(教室)方式」(平成13年)をさらに展開し、「異学年」のクラスグループを「クラスター」とし、施設上も教育上も生徒指導の基本に据えたものです。(至民中設立経過についての詳細は、『建築が教育を変える』(鹿島出版会2009)を参照。)


 生徒は、3学年各1クラスのグループに属し、この3クラスがひとつのクラスター(ホームとも言う)を構成します。ここは5学級ですから全部で5つのクラスターがあることになります。各クラスターにはきちんと「居場所」が設けられています(この点が一般の「教科センター方式」と異なる)。下の写真はそのひとつで、オープン形式で3つの教室がワンセットでまとめられています。朝のホームルームなどここで行われます。IMG 0248
 しかし授業は各教科スペースで行われ、生徒は教科毎にそこに移動します。教科スペースは数個の教室がつながったもので、教科に合わせてきれいにデコレーションされていました。写真は社会科のスペースです。

IMG 0254
 そして、教科スペースに各教科の先生方の部屋があります。

IMG 0253
 職員室は別に広い部屋がありますが、先生方は、授業のための資料などはほとんどこちらに持ち込んでいるようです。壁とドアはガラス張りで、生徒も気楽な感じでこの部屋に顔を出していました。
 イギリス、ドイツ、アメリカでいくつか学校を見学したことがありますが、多くは先生方は自分の教室に私物を持ち込んで居場所にしており、そう恵まれた環境にはありません。至民中の施設は、欧米の平均水準と比べて格段にその上をいっています。

 壁やドアのガラス張りは学校全体でも貫かれており、教科スペースでの授業風景も見ましたが、全体のスペースがたっぷりしていることもあって隣の教室の話し声はほとんど気になりませんでした。ここはオープンスクールとしても徹底していますが、そのコンセプトは、後で述べますように、研修で常時先生方が互い授業を見合ったり、大学院生や見学者にオープンにしていこうということでした。

 授業中でも壁はありません。

IMG 0266
 職員室の入り口付近です。全部ガラス張り。隣接する校長室までドアはガラスで丸見えでした。

IMG 0268
 あとユニークなのは、生徒同士、異学年同士の学び合いに生かそうと、教室の間仕切りが全部ホワイトボードになっていることでした。

IMG 0259
 さて施設の概要は以上ですが、この至民中の「異学年教科センター方式」の教育上の意味をどうみたらいいでしょうか。(続く)

Tag:教育 

プロフィール

村山紀昭

Author:村山紀昭
長い間、北海道教育大学で哲学を教え、1999年から私大を含めて10年間学長をつとめました。
退職後、教育と福沢に関する月1回の勉強会「教育人間塾」を続けるとともに、文科省の委員会委員や北海道教育委員会のアドバイザーとして、教育政策とくに教師教育政策に関わってきました。
平成26年4月からはフリーなスタンスで教育や福沢について思索する日々です。
趣味は音楽とオーディオ、クラシックと初期ジャズが好き。

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