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福井大学の学校拠点方式(2)

福井二日目は、朝9時から午後2時までびっちりと「ラウンドテーブル」。

400人が6人ずつテーブルに別れ、無意味な挨拶など抜きに討論に入ります。かつワールドカフェとは違い、予めテーブル毎に3人発表者が決まっており、30分ほど資料に基づいて話をします。それについて1時間話し合いします。

これはいいやり方です。中身がありますから。僕のテーブルの発表者は、中学の教務主任である現職の教職大学院2年目学生、ストレートマスター1年生、数年前に修了した高校家庭科の中堅教師。その他コーディネーターは、県教育センターの指導主事、もう一人は上越の教職大学院の准教授です。

いずれも興味深い発表でした。最初はベテランの教務主任院生。彼は新設の小規模中学の設置準備そのものが大学院での研究テーマでした。福井の学校拠点方式では、現職院生は自分の勤務校で職務をしながら院生としての研究に2年間取り組みます。

興味深かったのは、学校の教育目標を作り上げるプロセス。学校内で週1回行われる研究会のグループで1年かけて徹底討論をします。まずは地域の子どもの実態から始め、小さな地域社会に閉じこもりがちな状況から、「外でも通用できる力」をつけることがホワイトボードを使って導きだされます。

面白いのは福井の先生方はそうしたやり方をファシグラとか流行のタームを一切使わないで普通にやっていることです。

で、作り上げたのは、「社会で通用する人を育てたい」という目標で、それを「社会参画型学力の育成」と定式化します。その際武器にしたのは、最新の中教審のキャリア教育に関する答申です。それは、現職の場合、月一回大学に集まり指導教授のもとで蓄積した学習です。

その目標はすでに実行の段階に入っていますが、問題点を質問したところ、生徒の活動力は上がっているが低学力の問題になかなか食い込めないとのことでした。福井は皆さんが「協働の学び」と言います。しかし基礎の習得と活用をどうつなげるか?、基礎自体の習得は?、というのは大きな課題のようです。

次は、中学の体育教師を目指す若いストレートマスター。彼女は拠点校に週3日フルタイムで通います。学校でTTとして体育の授業に加わったり、毎週の校内研究会にも職員会議にも専任と一緒に参加します。でも自分の研究テーマも持っています。テーマは「自己肯定感を高める教師をめざしてー生徒の行動を見取ることで変わった対応の仕方」。

きっかけは、体育の授業でいつも何人かの生徒が、授業に参加せず体育館の隅で座り込んでいたことだそうです。そういう生徒をちゃんと指導して参加させるにはどうしたらいいか、学部では全く分からず、このままでは教師にすぐなる気になれなかったとのことです。まっとうなモチベーションです。

彼女は、一年間体育の授業もやりつつこの課題のために問題行動のある生徒数人と個別にとことん関わってきました。褒め方叱り方などいろいろ試行錯誤しながら。その際、毎週一日大学に戻ってやる指導教授を交えたカンファレンスが大きな役割を果たしているそうです(あとの一日は教材研究などの研修日)。

午前中はそれぞれが持ち寄ったケースを出し合い討論します。こういうカンファレンスはアメリカでよく見られる方法です。午後は教授が提起する課題とテキストについてゼミ的に学びます。彼女は文科省の最近の「生徒指導提要」を読み込みます。当日のやり方はゼミというより英国のチュートリアルのような感じです。

でも問題ある生徒との具体的な対応策の答えはまだ見つかっていません。ピアスを付けたりその穴を空けた生徒をどう指導するか、ずいぶん考えているようでした。おそらく一年後彼女は、それなりの答えを報告書にきちんとまとめるでしょう。福井では修了時点で、百数十頁に及ぶ報告書を立派な冊子として残します。

午後は、すでに修了した高校家庭科教師です。彼女は東京の私学の家政学部卒業者です。教職大学院に入った動機は、大学で教職課程を経て免許を取り教師になったが、専門は自信があったがあまりにも教職について無知であったので自信を持てなかったからと言います。就職後10年以上たって志願しました。

彼女の発表は具体的な授業の中身で、興味深かったです。簡単に言うと住居の設計図を読み取る授業で、特に引き戸と扉の違いを理解させようというもの。生徒はその違いをほとんど分かっていません。なんでもドアの感覚です。で、いちど興味を惹くためにグループに分けて夢の家ということで自由に絵を書かせます。

しかしその結果はかんばしくありませんでした。テストで、引き戸と扉の違いをかなりの生徒が分かっていなかったのです。特にグループの中で勉強苦手な子は、ほとんどグループの活発な子に任して自分では考えていないことに気づいたのです。それで翌年作戦を変えます。

はじめに両者の違いをきちんと教え、その記号を紙に書かせて練習させたのです。結果は90パーセントできるようになったと言います。これを巡ってのテーブルでの討論は意見が分かれました。やはり生徒の興味や自発性が大事だというのと、両者の違いをとにかく理解させることは十分価値があるというのと。

発表した先生は、生徒がいずれアパートに入るときにも必要だと話していました。でもここは結論を出す場ではありません。テーブルの6人それぞれ問題意識を持って終わったと言えるでしょう。

以上がラウンドテーブルの概要です。

教員の資質能力向上の福井方式について、かなり具体的なイメージを持てました。要するに、徹底して学校での実際に即してやろうということです。かつ、それを院生自身の自らの「振り返り」を通してやる。固く言えば実践の「省察」です。その際グループでの討論が大事です。

これは、アメリカのPDSやショーンの高度専門職に関する反省的実践家の蓄積を一つのベースにしたものです。ただ、そのモノマネでなく、またがんじがらめの押し付け的枠組みでなく、柔軟に伸び伸びと展開している点が注目されます。

ショーンも言うように、医師や弁護士と違って、高度専門職といっても法則性の「応用」が容易に効かないのが教職の難しさです。多様な子どもたちは応用では済みません。また丁稚奉公的な訓練で済むものでもありません。その点で、福井大の学校拠点方式は、高度専門職としての教員の資質能力向上の有望な試みだと言えるのではないでしょうか。
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プロフィール

村山紀昭

Author:村山紀昭
長い間、北海道教育大学で哲学を教え、1999年から私大を含めて10年間学長をつとめました。
退職後、教育と福沢に関する月1回の勉強会「教育人間塾」を続けるとともに、文科省の委員会委員や北海道教育委員会のアドバイザーとして、教育政策とくに教師教育政策に関わってきました。
平成26年4月からはフリーなスタンスで教育や福沢について思索する日々です。
趣味は音楽とオーディオ、クラシックと初期ジャズが好き。

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