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教員養成の修士レベル化をどう実現するか

[ 以下の小論は、雑誌「シナプス」9月号(ジアース新社)に掲載されたものです。中教審答申を受けてその具体化をどう図るかについて私見をまとめたもので、5月に執筆しました。現在、将来の免許法の全面改正の前に、文科省内に「教員の資質能力向上に係る当面の改善方策の実施に向けた協力者会議」が設置され、年内を目処に当面の教職大学院の量質の充実などについて鋭意検討が始まっています。筆者はその委員になっていますが、その検討のためのひとつの参考になりうると考え、出版社の承諾を得て本ブログにアップします。 ]

1 はじめに

 諮問以来2年近い議論を経て中教審・教員の資質能力向上特別部会でまとめられた案を基にして、8月末ようやく教員養成の修士レベル化を正面に掲げた答申が出た。

 本答申は、教員養成・採用・研修等全体にわたる広範囲の内容を含むものであるが、そのポイントは言うまでもなく、日本の小中高の教師の資格を修士レベルに引き上げることにある。これは、基礎資格を学士とした、戦後すぐの大学における教員養成原則の導入以来の教員養成の大改革だ。

 しかし、今回の修士レベル化は、諮問当初新聞等で報じられたような、修士5年ないし6年制として養成期間を単純に延長しようとするものではない。総数で100万人を超える日本の教員層を一挙に修士化することは、政治経済のあれこれの動向を別にしても、非現実的である。修士レベル化を基本方向として見定めながら、これをどう現実的に追求していくか・・・答申は、「Ⅲ 当面の改善方策」に重きを置き、修士レベル化をステップを踏んで段階的に推進するとの観点から、修士レベルの教員養成の「質と量」に関していくつか重要な課題提起をしている。本稿では、その主要な論点について、少々踏み込んで私見を述べることにしたい。

2 修士レベル化にどう接近するか

 一挙に修士レベル化することが非現実的なのは、大量退職採用時代に単純に修業年数を延長することが教員志望者を減らしかねない恐れとともに、修士レベルの教育体制が量的に不十分な点にある(小中高等の新規教員採用者数約3万人に対して、教職大学院の入学定員830人、 国立教員養成系教育学研究科の入学定員3,333人、国立一般大学院専修免許状取得者3,000人、同公立350人、同私立3,500人、計1万人強、平成23年度)。

 これは、理論的には、奨学金などによる手厚い国のサポートや修士レベルの教職課程の大幅な拡充により解決可能ではあるが、現在の国の財政状況などから容易にすぐ望める状況にはない。

 かつ、こうした物的諸条件と同じく重大なのは、現在の大学における教員養成について、そのまま修業年限を延長してどれだけ質の高い養成ができるかとの疑念が、教育現場などに強く残っていることである。他方で、教育課題が複雑化・高度化している中で、採用後の教師の資質能力の維持と向上が、近年の学校規模の縮小や年齢構成のいびつ化もあり極めて困難になってきている実態もある。

 そこで、課題は、ここ10年ほどの大量退職採用時代に、教員の量と質の両方を二つながら確実に追求する方策をどう立てるか、大学における教員養成を改善しつつ、大学等の手持ちの教育資源をフルに活用する中で、高度の質を持った教員養成(高度専門職としての教員養成)の実をどうあげるかということだ。

 であれば、いま何よりも肝要なのは、教員の資質能力に関わるおもな当事者である大学と教育委員会が、「養成は大学、研修は教育委員会」の壁を打ち破って、教職の高度化のために何をどうするかである。

(1)免許法の抜本改正など国の制度改革をただ待つ姿勢から脱却しなければならない。実際の教員養成の質、教師の力量の切実な課題から出発して、可能な手立てをすぐにでもできるところから始めるべきである。

(2)大学における養成や教育委員会による研修への相互の不信を克服しつつ両者が力を合わせれば、現行制度の中でも、教員の質の維持・向上の方策として修士レベル化を有効かつ不可欠な形で追求することは十分に可能である。かつ、それは、答申が述べているように、それぞれの「地域の実情に応じて」進められるべきであろう。

(3)しかし、そのためには、国公私を通した学部教職課程の改革のみならず、後述のように、教員養成大学・学部における既存教育学研究科の改組と教職大学院の拡充、現行の専修免許状の見直しと教職の高度化のための国公私の連携の推進が必須である。

 都道府県の教員構成や採用数、資質向上の力点に応じて、まさにステップを踏んで、現行制度を活用した修士レベル化を進めるのである。採用数が少ない県では(平成23年度実績では200人以下が14県ある)、新規採用者を計画的に教職大学院等で修士レベル化することが可能であろう。ある県では、ミドルリーダーの資質向上を重点的に推進することもあろう。採用者が多数のところでは、場合によっては、高校教員を先行させるなど学校種ごとに進めたり、教科ごとに特定の教科を先行させることもありうるかもしれない。その際、国の役割は、これらの地域ごとの修士レベル化の推進に、種々の予算上(加配を含めて)のインセンティブを提供することであろう。

 それにしても、各地域の教育委員会(デマンドサイド)がこうした実質的・段階的な修士レベル化を主導するには、併行して大学側(サプライサイド)の修士レベルの教育体制の量と質の充実が不可欠である。

3 教職大学院の充実と拡充

 答申は、修士レベル化のおもな担い手を、教職大学院に置いている。今回の修士レベル化の基本的な方向付けの根拠として、平成20年度にスタートした教職大学院の実際の成果があることからして、これは妥当である。教職大学院は、高度専門職としての教員養成に関して、間違いなく、学校現場を重視し理論と実践を往還させる従来にない
あり方を生み出した。

 しかし、20都道府県25大学入学定員830人の規模しかない教職大学院をどう拡充するか。

(1)教職大学院未設置の27府県で、府県教育委員会と関係大学とが協議し、早急に設置計画を立てる必要がある。設置済みの都道府県でも、資質能力向上の有効な教育機関でありうることを踏まえ、教育委員会からの派遣数を可能な限り増やし、教職大学院の入学定員の増を図る(各大学で、学部入学定員に対して一定比率で計画的に増やしていくことも考えられる)。また、学部教員養成が主の私立大学教育学部でも、学部と接続した教職大学院の設置を促進すべきであろう。

(2)その際、現職派遣に要する財政負担の困難さを考慮するとともに、学校を拠点とした理論と実践の往還の有効性を一層重視し、一部で「学校拠点方式」として実行されている、学校に勤務したまま大学院で修学する方式を積極的に検討する。これは、教職大学院の教育の質を低下させるのではなく、むしろ、学校現場に根ざした実践的教育をより徹底させようとするものである。

(3)設置後4年経ち、内容上一定の実績と蓄積ができてきたことを踏まえて、新規設置の大きなハードルになっている実務家教員の比率や必要教員数について若干の柔軟化を行う。併せて、教育課程上大きな部分を占める5分野の「共通科目」について、ともすればそれぞれの分野ごとに「コンパートメント化」しかねない弊害を避ける点から、より学校現場の課題に即したものとして統合的に行われるように見直す。現職教員の学校実習の免除について、学校課題の実践の中で資質能力を向上させることにつながらない面があり、学校拠点の理論と実践の往還をより徹底する方向に実習のあり方を見直す。

(4)個々の教科専門に偏らないように学校経営全般にわたり学修させる当初の趣旨を活かしつつ、ストレートマスターないし採用直後初任段階での修士レベル課程を重視して、学校での実践に即した教科教育・授業法をより幅広く学ぶことができるように工夫する。

4 既存の教育学研究科の改革

 教職大学院が徐々に充実・拡充されていくにしても、一挙には進まないし、すでにより大きな規模を有している既存の教育学研究科(国立が大多数であるが私立大学も小規模ながら含まれる)が、修士レベル化でどういう役割を果たすかは重要である。

 大まかな方向性としては、既存の教育学研究科は、一般大学の専門に関する修士課程と同様に、教科専門を重視した修士レベル教職課程として役割を果たしていくことが可能だと言える。しかし事はそう簡単ではない。

(1)教員数約100人以下の教育学部では、教職大学院との並立は事実上困難であり、教育委員会等の望む資質能力を備えた教員養成の要望次第では、教職大学院への全面転換が求められるであろう。これは長年継続した教育研究体制の大転換となり、所属大学教員にとって大きな試練になると考えられるが、日本の教師の資質能力の向上のための修士レベル化という使命からすれば、避けて通るべき課題ではない。とくに、義務教育学校の教員養成の主要部分を担っている国立の教員養成大学・学部は、この課題に正面から応える責務がある。

(2)比較的大規模な教員養成大学・学部であっても、既存の教育学研究科のあり方が現状のままでいいわけではない。後述するように、答申では、、専門教科中心で学校現場に即した実践的な研究になりがたい専修免許状の現状について、一定期間学校実習を課すなどの改善策を打ち出している。教員養成系の教育学研究科では、学校をフィールドとした調査研究が重視されるなど一般大学との違いは確かにあるが、いま求められている高度専門職としての資質能力の獲得には十全とは言いがたい。こうした視点から、既存の教育学研究科について、教職大学院と併存するにしても大幅な改革が必至である。

(3)上記(1)に関しても(2)に関しても問われるのは、学校現場に即した修士レベル教育に、教科専門の教員がどのように関わるのかであろう。これは3の(4)で述べた、教職大学院への教科教育・授業法の適切な導入にも密接に関係する。ここでこの問題について詳述することはできないが、最小限以下の点は言えると思われる。

 教科専門の教員の、教職大学院や、より実践的な教育学研究科への関わりは、教科専門の高度の専門研究を軽視することではないこと、高度の専門教科の研究を踏まえつつ、これを学校現場の授業等の実際の場面に活かすあり方が問われるものであること(答申では、これを仮に「教科内容構成に関する科目」の導入としている)、理論と実践の往還を核とした高度専門職養成を前提にすると、学部段階での教員養成に関しては、これまで以上に専門教科の基礎知識の教育が重視されるべきであること。これらをふまえ、今回の提案が、教科専門を厚く擁し教科への深い理解に基づく教員養成を積み重ねてきた日本の伝統を放棄するものではないことに、十分留意する必要がある。

5 専修免許状の見直しと大学連携

 修士レベルの教育体制の量的整備の観点から言えば、上述の教職大学院の充実・拡充、既存教育学研究科の改革と並んで欠かせないのは、一般大学の理学部、文学部等の大学院をより適切に活用することである。実際に、これらの修士課程で、すでに教員養成系の大学院のほぼ倍の専修免許状が取得されている。この活用は、単に量的な数字合わせのためではない。小中高の教員世界に多様な人材の参入を促すことは、教育の質向上のために欠かせないからである。これは、戦後の開放制免許制度の本来の趣旨でもあった。教師の個性の多様性、それぞれの専門研究の深さは学校教育の発展にとって貴重である。とくに、高い専門性が求められる高校教育においては、一般大学の修士課程は重要だ。
 しかし、ここにも難問がある。これらの一般大学修士課程は、課程認定を受けて専修免許取得可能であるとはいえ、教育課程の中身としては実践的指導力の形成には極めて不十分な仕組みになっているのである。学部で中学ないし高校の1種免許状を持っていれば、事実上ほぼ教科専門の積み重ねにより専修免許状を取得できるのである。これではいま求められる高度専門職の養成とは言えない。修士レベル化だからといって、中身を問わず修士の学位があればいいわけではない。

 答申は、ここにメスを入れ、専修免許状取得に何らかの形で学校での実習を組み込むことを提案している。その詳細は今後の課題であるが、いま留意すべきは、修士レベル化をここまで押し広げるとき、必然的に、大学間の多様な連携が必須の課題になるだろうということである。

 目前にあるのは、稀少な教育資源である。そうした点から言うと、あれもこれもそれぞれの機関でこなそうというのはまことに非効率であるし現実的でもない。

 総合大学で、学部の教職課程に加えて、専修免許に関わる実習等の実践的なプログラムに取り組むことが可能であり効率的であろうか。ここに、互いに足りないところを補い合う連合方式、共同教育方式の大学連携の必要性がある。すでに、京都では、7つの私立大学と京都教育大学との連合教職大学院の実績がある。これを修士レベルで、一般大学と教職大学院との間に応用することは十分に可能である。

 答申が提起している修士レベル化は、最近強調され始めている大学間連携に、教員養成に関わる諸機関が本気で取り組むかどうかを問うものでもあるとも言えるのである。

 以上、教職大学院の充実・拡充、既存教育学研究科の改革、教職の高度専門職化に関わる国公私の多様な大学間連携等の着実な推進により、修士レベルの教員養成の有効性が一層明らかになっていく中で、修士レベルを基本とする抜本的な免許法改正の展望も開けてくると思われる。
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テーマ : 教育
ジャンル : 学校・教育

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プロフィール

村山紀昭

Author:村山紀昭
長い間、北海道教育大学で哲学を教え、1999年から私大を含めて10年間学長をつとめました。
退職後、教育と福沢に関する月1回の勉強会「教育人間塾」を続けるとともに、文科省の委員会委員や北海道教育委員会のアドバイザーとして、教育政策とくに教師教育政策に関わってきました。
平成26年4月からはフリーなスタンスで教育や福沢について思索する日々です。
趣味は音楽とオーディオ、クラシックと初期ジャズが好き。

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